STEVE GADD

Strokin / Richard Tee

ガッドをガッドとして認識して聴いたのは、姉貴が持っていたリチャード・ティーのStrokinだったか。そういえばチャック・マンジョーネやジョン・トロペイもあった。正確にはよく覚えていないが、StrokinのA Trainを聴いて「モダンだなぁ」と思った記憶がある。その後ガッドにはまったのは「Live In New York / Stuff」。カシオペアに加入して間もない神保彰氏の演奏をFMでエアチェックしていたのと同時期のこと。写譜の仕事をしていた姉貴の部屋にはキーボードマガジンとかジャズライフといった雑誌が転がっていて、その中にガッドの記事があったように憶えているのだが、新聞のFM欄に「stuffライブ」とあって聴いてみようと思った。確かその日は録音せずに聴いていた。リラックスしまくりのゆったり音楽が流れ「まぁ録音してなかったけど、よかったかな」と思って聴いていた。ところが、番組の最後にあのアルバムのB面1曲目、ドラムソロから始まる曲がかかり、冒頭の長いソロがラジオから流れる。このドラムソロを聴いた途端「かっこいい!」と思いつつ、録音していなかったことを後悔するばかり。

こうして、テープ代をケチったばかりに「あのソロをもう一度聴きたい」と、後悔後を絶たずの毎日。ある時決意してレコード屋に繰り出す。確か秋葉原の石丸電気だったか。そういえばあの頃の石丸のレコード売り場とかって、異様な熱気があったなぁ。店内は赤い絨毯とかじゃなかったか。今のTOWERとかHMVには無い雰囲気だった。Stuffの置いてある棚を発見し、アルバムジャケットを順番に眺めてみる。なんといってもFMで音を聴いただけである。アルバムの名前も聞きそびれていたし、Stuffのアルバムはいくつもある。買ってみて違ったらどうしよう...。しかし、順番に見ていくうちになにやらピンと来た。「Live in N.Y」。ジャケットの写真がかっちょいい。そういえばライブってことだったしな...。アルバムの発売時期を見るとごく新しいもののようだった。

Live in New York / Stuff

それを買って家に帰り、プレーヤーに載せて針を落とす。A面の1曲目...。あれ、違う...。2曲目...。これも違う...。3曲目...。これでも無い...。そうこうしてA面を聴き終わり、なにやら滲み寄る敗北感を感じながらB面に。「ドンツクドンツチーッタッ!.....」ドラムソロが始まる。「あああ!これだぁぁぁ!いやったぁぁぁ!」。かくしてFMで聴いた曲には再度巡り会うことができたのだが、これ以降、このアルバムはB面1曲目のドラムソロの部分ばかりに針を落とされるようになった。このソロも本当によく聴いた。何度も何度も聴いた。ガッドとクリス・パーカーが一緒にやっているということはジャケットを見ればすぐわかるのに「ガッドはすげぇ!一人で二人分に聞こえるぜ!」なんて思っていた。アホである。

大学に入ると、その他のガッドもよく聴いた。アルジャロウのSpainなどは、まさに現代における芸術品とすら思えたし、Chick CoreaのFriendsの気迫には畏怖すら感じた。あの頃はドラマーが集まると「これ聴いた?」なんつってテープを貸してくれたりしたし、「バンドやろうよ」と言われてテープを渡されると、ガッドが叩いている曲だったり、何もしなくてもガッドの音源は出回っていた。あの当時のガッドを聴いた印象は本当に強力だった。ガッドがクレジットされているアルバムは続々と登場し、常にドラミングが進化していて、ドラムの世界で大きな時代が動いていることを感じさせられた。エネルギー発散のためのエンターテイメントであるとか、ダンスのための音楽ではなく、限りなくシリアスで職人技を感じさせる芸術としてのドラミングという側面を感じずにはいられなかった。

ガッドのドラミングについて、今一番感じるのは、あの音色の創造性である。ヤマハの9000とEvansのハイドローリックに、ゲソゲソのシンバル。シンバルはOLD Kだったり、Early American Kであったりプロトであったりだが、あのサウンドで演奏に臨むということに恐ろしいほどの実力を感じる。なにが音楽なのかを突き詰めた結果、あそこに行き着いたということなのだろうか。

ガッドを聴くと、自分で物事を突き詰めていくことへの勇気を与えられる気がします。

( 2006/02/08 )