1)食いものに対するこだわり

いつの頃からか、食い物の味についていろいろ考えるようになった。

30代を過ぎた頃、制作系の仕事などいろいろ抱えていて、毎日事務所のスタジオにこもって徹夜していた。あれはあれで実に充実もしていたのだが、ある日、いつものように近所のコンビニで買ってきた弁当を開けたとき、立ち上る匂いに、自分の奥底の何かが拒絶をし気持ち悪くなった。食べていて戻したくなる感じ。口に入れると、舌は味付けを感じるのだが、体が飲み込むのを拒絶する。子供の頃から食事の時にごくたまに感じる「嫌な感じ」というのが、最大級に増幅された感じだった。これは、コンビニの弁当に問題があるというよりは、不規則な生活、深夜のラーメンや焼肉などの暴飲暴食と朝飯抜き、運動不足、日光不足によるものだったと思われる。

そして同時期に、とあるギタリストの家に遊びに行ったときのこと。部屋でビールを飲みながら、マックや音楽のことを話しながら、夜も遅い時間になった。「なんか腹が減ったな。ラーメン作るから待っててくれ」という。車もあるんだし、どっか食べに行けばいいのに、作るっていってもな、不味かったらどうしよう(笑)と思ったのだが、まぁ郷に入っては郷に従えってな感じで。しばらくするとラーメンが運ばれてきた。なにやら手作りだ。しかし、見た感じサッポロ一番とかインスタントではなさそうな…。「スープから作ったんだぜ」なんだかそんなことを当たり前のように言うその人が不思議だなぁと思いつつも食べてみると、これが、前述したような食事の時の「嫌な感じ」のまったくない、いやむしろ安心する味だったのだ。

私という人間は大層な見栄っ張りなものだから、同じような状況であれば、手作りよりも有名な店に連れて行くこととか、隠れた名ブランド品とかのほうが洒落ていてよいものだと感じることのほうが多い。もちろんTPOに応じて、そういうものの良さもあるのだが、あの手作りラーメンは自分にとって事件だった。なぜ、これだけ忙しいのに、あの男はそういうことに時間をかけられるのだろうか。そして、男の手作り料理が店の味を越えられるんだろうか、というような漠然とした感じではあったが、あの頃から何かが変わり始めた。

( 2005/12/25 )