フェルメール

少女/Johannes Vermeer(1632-1675)
ニューヨーク メトロポリタン美術館にて


1990年の1月、初めてニューヨークに行ったときのことです。ジャズを聴くのは夜だし、昼間は何をしようかと思って美術館に行きました。

美術館を見て回るほど絵が好きなわけでもなかったですが「NYに行ったら美術館に行け」と聴いたことがあったので、まずはメトロポリタン美術館へ。

美術館が近づいてくるにつれ、自分が向かうところがどういう場所なのか、肌に感じることができました。中に入ってとにかく驚くばかり。日本では体験したことのない絵画の数々、そのスケールの大きさ...。感動と言うよりもむしろ冷や汗をかき、こういう文化をまったく知らない自分というものが、いったいこの膨大な絵画をどう楽しんだらいいのか...。

とりあえずできることをするしかないということで、端から端まで見ていって、気に入った絵のタイトルと作者の名前を手帳に書いていきました。聴いたことのあるような名前、見たことのあるような絵、そんな程度でしたが、とある絵になにやら深い印象を感じました。「Vermeer」と手帳にメモし、読み方もわからず「ベールメール? ヴェルミール? なんじゃこりゃ」てな感じで。

メトロポリタンに圧倒され、しかしこんなに素晴らしい世界だったのか!なぜ今まで知らなかった!と興奮し、グッゲンハイムやMOMAなども見て回りました。同じようにメモしながら。すると、フリックコレクションでまた同じ感じを抱いた絵があり、見てみると「Vermeer」。ふ〜んと思いながら、なんというか、とりたてて派手であるとかそういうものではないけれど、構図や色遣いがいいなぁと思わせるその絵のことを憶えるようになりました。

日本に帰ってきてからフェルメールと呼ばれていることがわかり、絵描きの友人に話したら「あぁフェルメールか...いいよね」とだけ言われました。それから10年くらいでしょうか。日本でもフェルメールがブームみたいになった時期があり、その後青いターバンの娘が大阪に来たこともありましたね。

2000年6月大阪私立美術館

今では多くの本が出ていて、フェルメールもよく知られた画家ではあります。その素晴らしさは私のようなトーシロがどうこう言うことではありません。ただ、何も知らなかった自分が素直に惹かれた絵が、その後にブーム的な存在になったことはちょっと嬉しいことであって、専門家ではないのだから、そうやって楽しめればいいのだなと思ってみたり。

ちなみに、私が好きなのは冒頭の絵です。フェルメールの作品の中では特に有名なものではありません。でも、なんだか気に入ってしまった。その後ニューヨークに行くたびにこの絵には会いに行きましたが、いつ見ても心が落ち着いてよい気分になるのです。別にこの女性が好みのタイプということではないのですけれど...。たぶん、フェルメールがこの絵を描いていたときの気持ちに共振するものがあるのかもしれません。

( 2005/12/01 )