男の基板づくり

基板である。

たまに間違われているのだが、基盤ではなく「基板」だ。ここに書くこと限定すれば、プリント基板だ。

サンハヤトと言えば、なにやらくすぐったい思いをする人もいるであろう。そんな人は、隠れキリ○タンともいうべき、隠れ電子工作員だ。

確か中学生の頃にプリント基板やらエッチングというものに手を染めた記憶がある。最初はドキドキであった。しかもなんか一生懸命作ったわりに動かなかった気がする。

大学時代後半から、先輩キーボーディストに誘われて、マイコン系の開発をやっていた会社でバイトをしていた。そこでは試作品を多く作っていて、PC98のCANDYというCADを使って基板を作ったところ、なかなか便利だということで、いろいろやっていた。

大学時代は金が無かった。今でも無い。が、もっと無かった。ポケットに500円も入っていればもう人生何も恐くないくらいのものだった。ベースの先輩などは140円を握りしめて「これで○日ぶりの銭湯に入るか、食パンを買うか...」と叫んでいたりした、そんな時代だった。言っておくが80年代の大学生である。羽振りのよい人たちはスーツを着て大学にやってきては、スポーツカーに乗って夜は遊びに行っている連中だっていた。まぁそんなことはどおでも良い。要するに、無いものは作ったのだ。もちろん材料費もかかるが、数万円が数千円になるとなれば、作るしかあるまい。諦めるなんてことはつまらん。

結構珍しくもないことだが、学祭のステージで使う調光器を作ったり、簡易ミキサーを作ったり...。そんなことから始まって、シモンズSDS5のコピーであるとか、サウンド&レコーディングマガジンのミキサー製作記事に取り憑かれて自分なりに回路を組んで作ってみたり...。そんな時、いつも基板作りはとても大事な作業だった。

自作基板です。試作。

ユニバーサル基板やラグ板を使うやりかたもある。真空管の時代は回路の電圧や電流も大きかったので、特にベーク板の基板など熱に弱く問題があったろうが、トランジスタ、IC(古いねどうも)であれば、基板の方が効率が良いと思われる。なんというか、カスタマイズされたひとつのユニットとしてのまとまりを感じさせるのが、基板であった。生基板を買ってきて、インスタント・レタリングやフレキシブル・テープを貼り付けて回路の配線をパターンとしていく。部品の大きさのベースはインチであり、0.1inch=2.54mmの方眼紙を使ってパターンを作っていくのだった。完成したら、エッチング液というものに浸し、基板の不要な銅箔を溶かしてしまう。このとき、エッチング液を温めておくとよいのだが、匂いが出る。好きな匂いではないが、今となってはなんだか懐かしい。概ね溶けてしまったら基板を水洗いし、レタリングやテープをはがす。そうしたものが貼ってある場所はエッチング液によって溶けることなく、基板に残るという寸法だ。

これはユニバーサル基板というもの。

エッチングが済んだら、部品を取り付けるための穴を開けていく。基板には抵抗、コンデンサ、トランジスタやオペアンプなど、いろいろなものを取り付けるのだが、部品のリード線の太さがマチマチで、ドリルの歯を交換しながら作業を進めていくのだ。また、ハンダ部品を挿したあとは、ハンダ付けをする。そのための部分をランドと呼ぶのだが、ドリルの穴は丸いランドの真ん中にピタッと決まると清々しい。プリント基板はその時々の回路専用の土台となり、基板に部品を配置していくことはなにやらとてもシステマチックである。

全然カッチョヨク無いですが...。シンセドラムを自作したときの試作品の数々です。

コンデンサ

抵抗

ボリュームの類

コネクタの類

その後、レタリングやテープを使ったやり方から、ネガ/ポジ基板という感光式のものを使うようにもなり、仕事で設計を行うようになると、前述したCADを使って透明度の高い厚手のトレーシングペーパーにプロッタでパターンを書き出したもので感光して作るようになった。パターンのラインも細くなり、ICや抵抗、コンデンサなどはみなチップになり、2層や3層の基板になっていったりしていった。高価なガラスエポキシ(だったっけ?)基板を使ったときはなにやら感慨深かったが、その頃には設計だけして、あとは業者がやってくれるようになった。スルーホールの処理が自前では無理だったからだ。あぁそういえば、プロッタの精度があがらなくて、ちょうどアップルがレーザープリンタを出し始めたころだったけれど、CADの代わりにイラストレータを使ってみたり、プロッタのデータをガーバーフォーマットで書き出してレーザープリンタでプリントさせるという目標を抱えたまま、結局は会社員をやめてドラムの世界に移ってしまった。

それ以降は、なにかを作ったりすることはあったけれど、基板を作るのは一度もやっていないように思う。ちょっと寂しいことではある。

( 2005/12/28 )