makito's voice

2001年10月02日
黒い物体その2

  • 10月になりました。今朝(10/2)は実によい天気です。
  • 先週の土曜日にゴム入り味噌ラーメンを食った後、どうにも人生の歯車が狂っている。あの日の夜には熱燗を呑んで喉を消毒し気持も和んだのだが、次の日曜日。事務所の楽器庫を片づけていた。その場所はタイコやパーカッションのハードケースなどがゴロゴロしている場所で、まぁゴシャゴシャしているところではある。おおきなスチール製の平机があり、それを捨てて新たに棚を作って整理しようということで、比較的張り切っていた。
  • 楽器庫の中のものを一旦外に出し、一緒に片づけをしていた「呉」という若者と「よし、次にこれも外に出していよいよ棚を作ろう」と言いながら、そのおおきな平机を「セーノ」と持ち上げた。重い。ズッズッと少し動いた。「セーノ」もう一度。今度は持つ場所を変えたせいかしっかり持ち上がり、大きく横に移動できた。すると呉(これがこの人の名字)が「うわー、汚いなー」と一言。引っ越しや模様替えで、何年も置いてあった家具をどけたときの、ほこりやゴミがたまった様子を想像してもらえればわかるであろう。彼がそう言ったとき、自分もまたそんな状態を思い出していた。
  • 儂という人間は、こういうとき「なになに~、うえ~ホントだ~、汚い~ギャハハ」などとふざける大人げない性格。しかし、彼が言ったその、汚い、平机をどけたところを見て絶句した。でっかいネズミの死骸。尻尾はミイラ化し、毛や糞が大量に散らばっている。
  • まぁ仕方の無いことだ。もはや外の物置ともいえる場所である。しかしだ、思い起こすに今年の夏、楽器をしまいながら、みんなで「なんか臭いよなー」と言っていたのはこれだったのか。うぅ。その後はペストだコレラだサルモネラだと騒ぎながら夜遅くまでかかってしまった。
  • 歯車が狂ったかもと感じたのはその次。昨日10/1なのだった。実は棚作りの後、その晩はほとんど寝られず、いろいろあって帰ってきて、まずは風呂に入ろうと、風呂場へ行き、電気をつけ、そのまま風呂釜のスイッチを入れようとした。何度となく繰り返した日常生活のひとこまである。トイレの戸を開けたらもうズボンを降ろし始めているというのと同じような、なかば反射的に行っている作業。で、我が家の構造上、風呂釜のスイッチは、風呂場に身を乗り出して、ちょっと手を伸ばさないと届かない。風呂場は床が濡れていることが多いので、左手で壁に寄りかかるようにし、上半身を乗り出して、右手を伸ばしてスイッチを押す。
  • ボ~ッとしていた。眠いというのもあったが、肉体的にもくたびれていた。風呂に入ってシャキッとしようと安堵感もあった。目はあまり開いてなかったように思う。そして、風呂釜のスイッチを押そうとして目を開け始めた。前述した身を乗り出した体勢で、顔は壁に近づく。風呂釜のスイッチをみるかいなかの瞬間、脳がなにかを感知した。今、目の前に黒い物がなかったか?風呂場の壁はクリーム。この色は気に入っている。しかしなぜ黒い物が?このときほど、目で見た物が脳に投影されるまでの時間が長いと感じたことはなかった。そう、頭のなかで、黒い物体はプログレッシブJpegのように、黒い塊から、段々と輪郭がハッキリし、遠近感と立体感も生まれ、ついには羽根の模様までクッキリと。
  • 顔から実に10センチのところにあったのは、巨大で黒々と光ったゴキブリであった。まったく気づかずに警戒心なく自然体で近づいていったからだろうか、ゴキブリはちっとも動じていなかった。森の中で熊にあっても、このように自然体だったならば熊は俺を人間と気づかずに行きすぎていったことだろう。しかしそんな自然体はそこまでである。Jpeg画像が100%ダウンロードされた直後、俺はそのまま後ろに飛びはねて「ギャー」「うわーやめてくれー」と叫び、顔を掻きむしりながらごきぶりと至近距離に近づいた自分の顔をとってしまいたいくらいだった。
  • 最終的には、暗殺を計画されたその黒い物体は、居間まで逃げたが、そこが最後の場所となった。それにしても疲れた。なんか、人生って楽しいなぁ。