makito's voice

2010年07月10日
ボタンミュージシャンと蛇口を回す世代

  • 以下、実際の会話ではありますが、あくまで冗談ということで。多少の編集含みます。
  • 学生6〜7人との会話。

     16分のアクセント移動やキックとスネアのコンビネーションなどをやりながら、左足のヒール&トゥの動きを加えるのが難しいという学生がいた。実際これはじっくり取り組まないと難しく、練習するべき音型の組み合わせも多いので、それをいきなり習得しようとすると大変なものではある。要領の良い子はわりとあっさりできてしまったり、普段ガンガン叩いてるやつでも、すごく苦手な組み合わせに手こずるなんてことは実によくある。
     その学生は真面目なやつであり、きちんとやるべきことに向かいつつも、うまくいかないんすよ〜とつい口にしている感じである。それをわざわざ「オマエは何を言っているのだ!そんなことでどうする!」と言ってもアレなので、

    「じゃぁやめちゃえばいいじゃん!左足使わないとか!」

    と言ってみた。すると

    「ええっ!やめちゃったらダメじゃないですか!」と笑いながら言う。

    「そもそもクラシックとかの楽器の演奏技法とかレベルからすれば、ジャズやロックになって、使われない表現とか削ぎ落とされていったものもあるだろう。海外留学してヨーロッパのオーケストラに、なんていうものから、Tシャツとジーンズでコード3つでもやれちゃうのがロックって面もあったろうし、民衆が音楽を手に入れたわけだよ!」


    「はぁ...」


     またなにやら始まった的な反応。まぁここから、左足はなぜ使うのか、それはひょっとしたら左手を使わずに飯食ってるやつみたいな行儀の問題か、なにか生物が感じる「動いてない部分への壊死や血の通わないものへの感じ方」なのかもしれないみたいな話もあったのだがそれは割愛。


    「大体8ビートなんてすごい発明なわけで。あれで、うわぁ〜楽器演奏できるんですか〜!なんて言われちゃうってすごいよな。まぁもちろん奥は深いのだが。」


    「まぁそうですね」


    「いっそのことさ、スネアだけで演奏するスタイルとか作っちゃたらいいんじゃん?あまねくテクニック習得地獄からも抜け出せるし(笑)」

    「いや、それはそれでスネアの上手い下手もあるじゃないですか」

    「そりゃそうだ!じゃぁただバックビートだけ叩くってのはどうだ?フィルも無し!叩いたらダメ!あぁでもそれでもタイムキープの問題とか音色の良し悪しもあるな...」

    「なんか寂しいですよ。」

    「セットが叩けないからスネアだけっていう消極的な発想はダメだが、あんまりいろいろやらない人もいるじゃん。えっ?それでいいんだ!?シンプルだけどすげーチカラあるね、っていう人もいるじゃん。ま、もちろんその実力ってのは別の話になるけど。」

    「スネアだけっすか...」

    「楽器はさ、うまくならないとか買えないとか、そういうコンプレックスもあるよな。そういう感情の不便から開放されるためには、もはや楽器も使ってはいけないのではないのか!」

    「じゃぁどうすんすか。パフォーマンスすか。」

    「いやそれはそれでいろいろあるだろうな...」

    「よしわかった!ボタンってのはどうだ!」

    「ボタン押すんですか」

    「ライブでメンバーが出てきてボタンを押す。すると音楽が始まる。」

    「音楽はどうすんすか。」

    「それはどっかで用意する(笑)」

    「まぁDJみたいなもんですかね。」

    「DJはテクニック大変そうだ」

    「もっと簡単にしないと」

    「ボタンなら誰でも押せますね。」

    「いや、俺はコンピュータミュージック教えていたことがあるが、半年経ってもマウスを逆さまに持ったり、フォルダが開けないとかドラッグできないとか、そういうやつはいたりするもんだ。だからボタンだって、ちゃんと押せないとか、正しい押し方を教えてください!なんてことになるかもしらん...」

    「わははは!」

    「あ、ちょっといいですか、ボク思うんですけど、最近蛇口って回さないと思いませんか。」

    「はぁ?蛇口?いきなり何を...?」

    「いや待て、なるほど蛇口...学校や駅とか、大体手を出せば水が出てくるな...」

    「そうなんですよ、最近回してないなと」

    「ゲゲゲ。あと10年もすると、蛇口回した世代?とか言われるんかな。」

    「そもそも蛇口って何ですか?とか。」

    「えっ?水って手を出せば出てくるんじゃないんですか?とか。」

    「蛇とかコワーイ」

    「噛まれちゃう!」

    「開いた蛇口はどうすればいいんですか?閉めるに決まってるだろ!みたいな。」


     くだらねぇ、と言いたげだが、あながち笑えない。


    「俺たち蛇口回した世代だ...」


     さっきまで本気で笑っていた一同だが、なにかシリアスなものが立ち込める。自分たちもいずれ古い世代になるという事実を愕然と感じている風でもある。ドラム練習してるときにこのシリアスな顔は見たことが無い。


    「ボタンだって、押せないやつが出てくるかも。」

    「そもそももうタッチパネルですよ」

    「東京ドームのステージでボタンを押すミュージシャン」

    「ミュージシャンなのかわからんな」

    「1曲目から順番にメンバーが押していって、ラストは全員で押す!これで観客は大盛り上がり!」

    「ボタンも、シグネイチャーモデルとかできるかもしれませんね。」

    「ワハハハ!」

    「結局同じか。」

    「なんにしろなんか考えないといけない気がしますね」

    「そうなのか?」

    「さて練習練習...」

     なにやらペーソスを感じたところで会話はお開き。お粗末さまです。