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2013年09月02日
小出シンバルとサカエリズム
結論を先に言えば、B23Tiと3plyに痺れた大阪行脚でした。いいですか。B23Tiと3plyです。それぞれに対象ジャンルがちょっと違うかもしれませんが、ドラマーなら覚えておきましょう(笑)詳細は、以下ダラダラと続く文章の中から掘り出してくださいませ。
夏冬といえば著作物の原稿作業に追われる時期だったのだけれど、一生使える本とかを出してしまって次を作らなくて良い状況になりw、昨今は学校関係が休みの時期、特に8月は丸々暇になってきている。こんなことで生きていけるのだろうかということを50手前にもなって人体実験しつつ、とはいえゲッソリして腹が凹んだ様子も無い。そんな中、大阪に行ってきた。福島のアイヴィ楽器でシンバルセミナーをやった後、何かお手伝いできることはできないかと思いつつ、また、自分でもなにやら回転台を作ってシンバルを削るということを試し始めたらば、そういった装置についてはやはり大事なポイントがあるのだということで小出社長に話をいただいたので、そういった勉強もさせていただきたくもあり。ま、正直言って、日頃の感謝と尊敬の意を込めて、掃除や片付けでもできればとも思ったけれども、実際にはぜんぜん違う方向で濃厚な時間になっていきました。
夜行バスで大阪へ。今回のバスは狭かったなぁ...。しかも高速バスのシステムが変わって、値段やら時間やら変更になって、なんだか今までのような早くて手軽って感じではなかった。実際、帰りの便はバスちっとも取れなくて、結局のぞみで帰ってきたり。いつものように梅田で朝一のうどんを食べて。安くてうまい。出汁に嫌なアジが無いし、後味に化学◯味料が感じられないし。関西はええなぁ(一応豊中生まれ)。平野に移動し、今回の同行者であるQちゃんと合流。もうひとりの同行者である豊橋シライミュージックの白井とっちは電車を間違えたというので、ほどなく先に工場へ。
うどん!
まずはあれこれ話しをした後、B23Ti素材のシンバルを見せて頂きました。この素材は、錫23%+銅の合金にチタンを入れたものということで、いわゆるハンドメイド系高級シンバルに使われてきたB20よりも錫の配合が多く、しかも通常の行程では混ぜられないチタンを混入しているとのことで、これが出来るのは日本では一社ということらしい。B23というものについては、過去のシンバルセミナーでプロトタイプとして登場していたり、そしてクラシック用の合わせシンバルとしてこうした素材を使ったものが販売開始されているので初見ではなかったが、先日の福島のセミナーの時に見せていただいたものは、ドラムセットでの使用を前提としたものであり、今回見せていただいたものは、さらにそれが出来上がるに至ったプロセスやバリエーション達も含まれていて、驚くようなサウンドのものもあった。
小出製作所。もっと近くにあったら...と考えずにはおられませんが、行き過ぎて出入り禁止になっていたかもw
B23Ti達が...
とにかく、素材が変わるのだから音は変わる。ジルジャンは秘伝のB20ブロンズを軸に大量のシンバルを高い品質でコンスタントに製造してきたし、パイステはPAT#4,809,581でThe Paisteを生み出した。素材による音の違い、同じ素材でも行程による音の違い、僕らの知らないところで今まででも様々に研究はされてきたと思います。たまたま自分が見ることができたものだからといって騒ぐつもりは無いのだけれど、いやはやこのB23Tiという素材は、叩けば叩くほどに今までのレンジと違うと感じるのです。20インチMediumHeavyウェイトのものでも、チップでチョンと叩いただけでストレートに響くし、そんなショットでもハードヒットでも倍音のバランスが深い。今までのシンバルというのは、ダイナミクスのレンジの位置づけというか個々のシンバルの守備範囲があって、アコースティックを想定したものは爆音は出ないし、爆音専用はピアニシモは弱いというか。もちろん今後どんな素材が出たとしても、それぞれに得手不得手はあるのだろうけれども、B23Tiに関しては、ウェイトの軽いものであろうが重いものであろうがレンジの広さは同じで「叩き手次第で」使える音が出るレンジが広くなったと感じます。
そして、ハンマリングやレイジングによって現れる特徴というものもあるのですが、なんというか「響かせ方」「奏で方」によって得られるニュアンスの幅も大きいので、ダークであるとかブライトであるとかいうシンバル個体の傾向よりも、演奏におけるそのニュアンスの変化の方が音楽の中での意味として機能するだろうし、むしろそれをより積極的に表現としてドラマーのボキャブラリーにしていく方向を広げてくれるということを感じます。いやーわかりにくい文章ですみません。カタログ的なボキャブラリーで表すのはちょっと時機尚早というか、それは今言うべきことじゃない感じがするので、こんな書き方をしてみました。実際、福島アイヴィ楽器のドラマー社長さんはB23Tiハイハットのプロトを速攻でゲットしていましたが、あのハイハットも素晴らしかったのです。そうそう、ひとつすごい発見がありました。AHEADという、ナイロンチップ+ファイバー(?)ボディのスティック、あれで叩いた音が実に良いのです。AHEADで叩いてより良い音がするシンバルってのは、なかなかその手応え自体が新しい感じです。とにかく思うのは、
この素材は爆音系広いステージでの演奏にも向くという上方向へのレンジ押し上げとともに、アコースティックな場面であらゆるダイナミクスにおいてのレスポンスの良さという、対極とも言えるマトリクスを埋めるポテンシャルを秘めている
と感じます。
さて、そうこうしているうちに白井としみつ君も到着し、あれこれ試しながらああでもないこうでもないと。今回は取り急ぎ何か仕上げるものがあったわけではなく、Qちゃんが以前ハンマリング制作したものをレイジングし直してみたり、白井君は工場のあちこちから面白そうなものを見つけてきたり。私は試作品をひたすら叩いてみたり。そんな中、あれこれ話が出る中でB23Tiを少し削ってみるかということになって、それによる変化、特にハイハットの組み合わせにうおお〜と唸りを上げてみたり。それにしても、ずっと音を聞いているうちに、最初の印象と違うところも出てくるわけで、そうなるとその視点でもう一度聴き直す。その繰り返し。そうこうしているうちに夕方になり、この日は終了してビールで乾杯。
白井としみつ氏がテスティング中。真剣な眼差し!
Qちゃんは日帰りだったので、串揚げを食べた後にお別れ。その後、夜の大阪を少し歩きつつ、小出さんも帰宅され、その後、としみつ氏が大阪の某楽器店に勤めるイケメンKMT君を呼びつけて歓談。みな頑張っているのだなぁと感じる。翌日はまた朝から小出に伺って、前の日に削ったシンバルの音の変化を聞いたり、あらためて音を聞いてマッチングを試したり。自分が思うところを小出社長に改めて伝えつつ、小出社長は実際の製造過程を考えておられるようでした。B23Tiの良い所ができる限りドラマーに伝わりやすい、万全の形で製品化されることを切に願うばかりです。それにしても、いつも書いていますがこの10年という中でこれだけの進化をしてきている小出さんの作品達が素晴らしいと思います。ここには敢えて書かないプロとのシンバル達も素晴らしく。独身時代だったらあの場でPAYPAL決済しまくっていたことでしょう(笑)
結局、工場ではあれこれさせて頂くばかりで、労働力提供なんて言っても実際邪魔なだけでございます。ろくにできることも無いままでしたが、この日は、前日に白井君が連絡していたサカエリズムに誘ってもらって行くことになりました。スティーヴ・ガッド、神保彰な世代であり、最初に買ったのが中古のYD-9000Rジェードグリーンだった私が、サカエリズムの名前を知らないはずはありません。ヤマハのドラムの流れ、最近のサカエドラムの製品の登場、いろいろ気にはしていました。以前シライミュージックで行われたSAKAE DRUMのセミナーの時に登場していた辻さんと会うことができ、最初は白井とっちにくっついて来たオッサンという体でしたが、製品のサンプルやカタログを垣間見ながら会議室で話しをするうちに、いろいろと話しが進んでいったように思います。
辻さんのモノ作りもまた、肝が座っていると感じました。辻さんは世界的にも知られているヤマハのハギさんとも仕事をされており、ドラマーとメーカーの関係についても身体で理解しているということは容易に想像できます。工場も見学させていただきながら、自分が使ってきた楽器達も、今所有しているあれもこれも、すべてここを通ったんだなと感じました。そして今ここに流れている製品達もいずれ出荷されドラマーの手に渡り、スタジオやステージで演奏される日が来るのだなぁと。いろいろな話をさせて頂きましたが、少し見せていただいた製品達は、おそるべきクオリティ。なんというか、ピッカピカなオーラが出ています。このところサカエの名前は若い層にも浸透してきていて、アメリカンメイプル6plyのThe Almightyシリーズを使っているプロドラマーも増えてきています。アメリカではなんと、エリック・ハーランドやグレッグハッチンソンがサカエを使い始めていて、サカエの英語サイトでは紹介されている3plyの
アレ
とか、
あのハードウェア
とか、いやはやすごく楽しみです。
私と白井君と辻さん。親切丁寧に工場を案内していただきました。
私は、最初は楽器に深く入り込みたいとは思っていなかったほうだと思います。もちろん良い音の楽器には興味ありましたけれど、素材とか製法とかそういうものに詳しい人に比べたら赤子も同然なレベルです。ただ、ある時期から楽器と音楽、音楽と人、楽器と人、演奏と音楽、演奏と人、演奏と楽器...。そういう軸で見るようになったときに、儀式のための楽器、音楽のための楽器、教育や音楽普及のための楽器、エンターテイメントやパフォーマンスの楽器、制作ツールとしての楽器みたいなことも考えたり。で、まぁ手前味噌な演奏をしながらも、その中で「状況に合った楽器」「自分を鼓舞する楽器」「自分がリラックスできる楽器」「奏法と呼び覚ます楽器」みたいなカテゴリーを考えてみたり。
「担う」という言葉があるけれど。お金を出して物を買うという図式が浸透し常識となって今日に至ると、なにか買う側の希望によってチョイスがあるというロジックが普通になってしまって、それはいわゆる上から目線の元凶なんじゃないかと思ったりもするのだけれど、「担っている人への信頼」とか「担っている人のノウハウ」みたいなものが、伝わりにくくなるように思う。楽器において、よほどの経験があれば別だけれども、担っている人の知識や経験に頼る方が良いに決まっています。ソムリエに聞くのが早い、みたいなものでしょう。とはいえ、あちこちの業界でマーケティングとマニュアル化による製品やサービスの質の低下であるとか、担い手をわざと見せないようにする手法であるとか、担い手自体の衰退というのもあるでしょう。そういう社会的な匂いの中で「信頼」はとうの昔に無くなって、値段での納得感、付加価値でのプレミア的満足感みたいなものに終始してしまって、実は信頼できる担い手は存在しているのに、見えなくなってしまっているというか。そうして担い手の方達も今の企業の動きに反して声を出さなくなったという面もあるように思います。
消費者側に話を戻せば、こういうことってものすごくつまらん大衆心理的なものを感じるし、せめて楽器くらいは、音楽から敬虔なインスピレーションをもらった人達ならば、毎日木材や金属と向かいあう人がいて、加工する人がいて、塗装して部品取り付けてダンボールに入れて伝票書いてトラックで運んで検品して宣伝して販売して手に入れて叩いて練習してメンテして教えたり教わったりスタジオはいったりライブやることになってステージに上ったり...なんてことの中に、それぞれ「担っている人」がいてこその世界だなんてことは、誰彼に言われずとも見えてくるべきではと思ってみたり。まぁ、担い手は見えているけど、俺は一番てっぺんでふんぞり返っていたいんだい!みたいな欲は人によってはあっても良いと思いますけれども。ま、担い手がふんぞり返ってる場合も、もちろんありますね。悪癖ってやつが、そろそろ流されてくると良いなと感じますが。
で、何が言いたいかというと、小出社長も辻さんも、見ている方向が、私がこうやって言葉にしているようなチンケな葛藤を通り越したところにあるわけですね。まさに「担い手」としての鍛錬を重ねた人の「身のこなし」なんだと感じます。まぁそりゃそうだよなとは思うのですけれども。この2つの会社が、大阪の近い距離にあるということに、またなにかロマンも感じます。自分は、テレビで日本チャチャチャとかやってるのあんまり好きじゃないんですが、世界で通用する品質を追求するドメスティックな打楽器メーカーというのは、貴重だなと思います。
そして、若い人にこういう場所を見学するチャンスが与えられることも望みます。「安かったんで買いまいました」「どこの店が安いですか?」「楽器って高いですよね」よく聞くセリフです。自分だって若い頃から何度と無く言って来てしまった言葉でもあります。しかし、見ればわかると思います。見てしまうとわからずにはいられないでしょう。自分がこの場にいて、作業をして、楽器が完成するまでのことをやったとしたら、その労働にいくら求めるのかって。いや、そんな無粋なことは言わずとも、何を目指して作られた楽器なのか、そこを理解せずに所有しブランド品のようにぶら下げることに意味があるのか。
そんな浅いつきあいかたをするんじゃなくて、もっともっとのめり込んでいい世界だし、もっとのめり込まないとわからない世界だよってことが、ああいう方達とその場所に触れることで、問答無用に身体で感じられると思うのです。結局、どこかで天秤にかけてしまうわけですよね。損得勘定も含め。値段とか性能とかブランドイメージとか。入り込むっていうのは無条件にリスクもあるわけで、実態もわからないのに飛び込むというようなことは、現代の賢い生き方とはある範囲で矛盾もあるでしょうし。しかしそれって、入り込まずに遠巻きに見てるから、そういう思考になってしまう面もあるのだろうと。入り込めば簡単なのに、遠巻きにいるから理屈や損得勘定が出る。入りたくても入りにくい現実はあるわけですけれど、入り込んでない人の現実対処と、のめり込んでいる人の現実対処は、やっぱり後者の方がダイナミックだなぁと。防衛のためのマージンのつもりが距離になり、いつしか現実を忌避しかねない面があるとすれば、それによって現実のバイブレーションも伝わってこなくなるということでしょうか。
いつにも増して、人がそこにいる、ということの意味を殊更に感じる大阪2daysでありました。見習わないといけないなぁ。自分はなにが出来るのかなぁ。そんなことを考えながら、その後高野山に向かい、数年前に小出さんに教えていただいてから行けずじまいだった立里荒神にお参りした後、ひょんなところで山の中で迷って遭難しかけたなんて話は、また後日...。
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