makito's voice
著書紹介など


「DTM打ち込みグルーヴ制作技法/山村牧人監修/リットーミュージック刊」

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<出版背景>

昨年、「もっとドラムがうまくなる7つの最強プログラム」をやらせていただいたリットー書籍部編集長からお題を頂き、取り組んだのがこの本です。RolandのV-Drumを使って実際に叩いて入力をし、その中にあるニュアンスをうまく切りだしてデータ化し、DTMのリズム制作に役立つものにしたい、というものでした。

<制作にあたって>

 自分は大学時代から機材関係は好きでいじくっていたことや、電子ドラムや打ち込みについても制作や出版等多少関わってきたので、話をいただいてすぐにリズムのリストを作りました。当初その中にはいろんなジャンルのリズムが入っていましたが、8BEAT、16BEATに絞った形でということになり、考えて見ればやはり一番求められるのはそこなのだろうということで、V-DRUMが到着してからサンプルを作りながら進めていきました。本書の中では、1小節の単位でパターンやフィルインが収められていますが、まずは曲を連想した形で入力していきながら、余計なノートなどを整理エディットしていきました。ちょっと大変だったのは「どれくらいニュアンスを残すか」です。ドラムのデータ単体で聴いていると「おお!なんか生っぽい!」と感じても、ベースなど他のパートが載るといろいろ難しい面も出てきます。そういう意味で、一般的にはドラムのパートはクオンタイズをかけてしまい、他のパートでニュアンスを出していくことがある意味ストレートでわかりやすいと思うのですが、やはりせっかく叩いて入力するのだから...。最終的には、ジャンルやそのリズムの特徴によって、必要に応じてエディットをしていきました。掲載したリズムは、曲想から連想したものやドラミングの特徴からイメージしたものなどいろいろな方面から、U編集長からの参考オーダーも含め、いろいろ作って選んでいきました。今回のものはドラミングの教則などでないので、なんとなく同じようなビート・スタイルでも、実際の楽曲としては全然違うものになる、そんなものも扱っています。

 音が一通り終わってから原稿作業で追い込みをかける段取りに入りますが、データに対する解説...。これは予想外に苦労しました。叩いて入れたものにあれこれ理屈を付けるというのは、本人にとってはなかなか難しいなと感じました。このあたりは文字数調整も含め、U編集長による助力もいただきました。しかしなかなかこれが、出来上がって読み返してみると、実はDTMだけじゃなくてドラムを練習している人にも読んでもらいたい内容になったのではないかと思います。

 ドラムのグルーヴというのは、リズム・パターンの形、スタイル、ジャンル、音色、タイム、ダイナミクスなど様々な要素が絡まった結果感じられるフィーリングの一面だと思います。音符の形が同じでも、強弱やタイムのちょっとした変化でニュアンスが大きく変わることは珍しくありません。MIDIの打ち込みで言えば、どこかの2音の強弱の関係がわずかに変わるだけで、なにか納得出来る人間味が生まれたり、逆に違和感を感じたり...。結果としてMIDIデータ、およびAIFFとなって収録される本書のリズムたちは、ほとんどロケーションとベロシティによって数値化されていきます。V-Drumは実際のドラミングに対応するべく様々な機能を持った音源であり、ベロシティによる音色の変化や収録されているドラム・サウンドのクオリティも高いものなのです。ロケーションとベロシティの2つでも生まれてくるニュアンスの範囲は広く、そこに集中してデータを眺めていれば、たとえば8ビートの中にあるスネアのフィーリングや、シャッフルやハネモノのニュアンス、ゴーストノートやフィルインの実際などわかってくる筈、というのはとても興味深いことです。

 この本をやりながら、ずっと前から思っている「リズムの正体」みたいなことをまとめることが出来たらと面白いだろうな思います。グルーヴとかヒューマンなニュアンスなど、ドラミングには都市伝説や神格化されるほどの「面白み」があります。これらはなぜ、どういう音の状況で人間にそういう印象を与えるのか...。データ的検証ができる部分とデータに出来ない面白さ。いつかそんなことがまとめられたらなぁと思っています。