makito's voice
著書紹介など


「一生使えるドラム基礎トレ本〜ドラマーのためのハノン〜/山村牧人著/リットー・ミュージック刊」

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<この本について>

 このところ出版制作の機会をたくさんいただいていましたが、これで打ち止め!?とも言える一冊が出ました。なんてったって一生使えるドラム基礎トレ本ですから!一生使えるということは、もうこれで私の本は要らないということになりますか(笑)。

 この本は、ドラマーの独習用をイメージしました。初心者の方でもできるように、敷居の低いところから始まって、メインは音型や2WAYを猛烈に練習するという内容になっています。生ドラムでも電子ドラムでも練習台でもできる練習ばかりです!実際の制作にも2BOX Music ApplicationsのDrum It Fiveという電子ドラムを、国内発売前にも関わらず楽器メーカー&2BOX輸入代理店であるKORGさんに無理をお願いして使用させていただき活用しています。ジャンルを問わずリズム&ドラム奏法について強くなる、そういう意味の「ハノン」をイメージしました。身近にドラムの先生がいれば、きっと様々な応用法を知っていますからそれを継承しさらに発展させることもできると思います。もちろんドラム講師の方々の生徒さんへの宿題として!(都合良すぎ?)

 さて、教則といえば、ドラムマガジンの連載「オールラウンドリズムセミナー」や「フィール&ロジック」という連載で書いていたことはひとつのなにかしらの塊でした。そして、当時から編集者という立場でこれらの記事を読み、そして担当としても関わっていただいていた人、ドラム関連記事に対する切れ味と考察の深さ、ドラマー人脈と人望に評価の高い「ドラム&ドラマーに関する敏腕出版クリエイター(もはやプロデュースの域?)」とも言える村田誠二氏、彼による創作小説やインタビューといった記事構成でできたものが「もっとドラムがうまくなる〜7つの最強プログラム〜」でした。

 今回の「ドラム基礎トレ本」は「練習する内容」が書いてある本です。そういう意味では「7つの最強プログラム」とは正反対かもしれません。とはいえ、ドラム教則本にはいろいろな素晴らしい本が既出しています。自分自身もお世話になったものばかりですから、それらとバッティングしないようにしたいというのはいつも考えたいところです。オリジナルに適うもの無しですから。

 教則本や出版物はたくさんあります。偉大なるドラマー諸氏による本が、そしてDVDも。そして今やYouTubeにもいろいろなレクチャー画像もあります。そして、そもそも音楽を聞いて音楽から学ぶ部分が一番なわけですから。教則本とかってのは「何かのモードに入らせる儀式的なもの」なのかもしれません。そういう意味では、出版物っていうのは本当に難しい。いろいろなものがあるのはある意味ではとてもよいことでもあって、ひとつの方向が見えればと。そういう意味では、自分として、今までの連載を全部まとめて少年ジャンプの増刊号みたいなのにしてくれたらいいのにとも思ったり(笑)

 実際の進行については、ドラマーのための「ハノン」という企画を聞いたときに、こりゃ私などより適任なドラマーがたくさんいらっしゃるだろうにと思いつつ、打ち合わせがスタートし、何が出来て何が出来ないのかを脳内リストアップするべく検討していきました。ドラムの教則本というと、国内外でもいろいろ出版されています。素晴らしいドラマー諸氏によるテキストがすでに存在しています。それを活用しない手はありません。特に最近は多様化するドラミングに合わせて様々なものが出ています。自分などはコンセプチュアルなものやなにかしら専門的なテーマを取り扱ったもの、マニアックなものなどに興味が湧きますが、これから教則本を買おうという人達にとっては、そういうったものはちょっと敷居が高いようです。まぁ実際難しいものもたくさんありますし。いわゆる「よく売れている」というものを出版社はつくろうとするだろうし、とはいえこちらはもう長いことドラムのレッスンとかをやっていて、生徒にどういう練習をさせるか、なんてことを考えてばかり。そこには大きく深い溝があります。それはおそらくどんな仕事でもそうでしょう。ここは頭をひねらないといけない。

 とはいえ、この本は「ハノン」とあります。ギターやベースのものがまず出版され、そのシリーズとしての位置づけ。なるほど美味しいフレーズや曲のコピーやスタイルというものよりも、奏法のためのメカニカルなトレーニングが中心になっていました。ドラムっていう楽器は、概ねこうした練習としてやるべきことは山ほどあります。4分音符ひとつでも、それをきれいな音色で心地良く繰り返してテンポを感じさせリズムの土台を作るのはなかなか大変で、あれこれ考えなくても良いのですが、毎日のように反復練習をしないと安定してこないところがあります。

 さて、ドラムセットを生んだアメリカという国のドラマー達はどんな練習をしているのでしょうか。そして、たとえばどんな教則本を使っているのでしょうか。私はリズム教育研究所の資料で多くの教則本を見ることができました。また、旅行でアメリカに行ったとき、PASICなどの打楽器イベントに参加したときに、向こうの書籍や映像を見る機会もありましたし、国内のセミナーやインタビューなど外人ドラマーと対面する機会があるときには、いろいろと尋ねたりしています。彼らの練習法は意外とシンプルだったりします。しかしそこには考察すべきテーマがあって、いかに設定されたハードルを越えるか、またその中でメカニズムを理解するか、というような視点があるように思います。

 また、シンコペーションブックなどのような、多くのドラマーが利用してきたポピュラーな教則本もあります。それらは「ロックドラミングとは」「ファンクとは」なんてことはヒトコトも書いていないし、楽しいサンプル楽曲も文章もほとんど付いていません。しかしその譜面に力があったり、その譜面の活用法が奥深いために愛されている、そんなところを感じます。私はTED REEDという人のことはあまり知らないけれども、SYNCOPATION BOOKは良く知っているし、あの譜面達を見ていることで、彼の考えのようなものを享受し、そして数多くのドラマー達があれを利用した練習を編み出している、その考え方を知ることができる。それは素晴らしいものです。そんなものは世の中にひとつあれば充分だし、別にここで取り立てて自分がなにか作らなくても、すでにあるものをみんなでもっと共有してやっていけば良いとも思うのです。

 ところがさきほどの「考え方を享受する」という意味では、今の時代のドラマーたちの目に触れるべきものというのは、まだまだ隙間がいろいろあるなと思うのです。まぁ本書はそんなところを思いながら作りました。「なにをどう練習/演奏するのか」というひらめきが出てきた時に、人は喜びを感じると思います。そこに至るためになにが必要かといえば、それはやはり素晴らしい音楽によって感動を受けることだと思いますが、楽器との対話、練習という場面になれば、やはりそれは「無垢な音符の練習」なのだと思います。

 これをやればフレーズが叩ける!誰でもやれる!という言い方はかなり多く使われてきました。それは多くの人を音楽に誘うことになったのでしょうか。もちろんすべてのものには理由があります。私もいろいろやらせてもらいましたが、フレーズの解説や奏法の紹介というのは、コピーの手助けとも言えるし、純粋なドラム演奏分析とも言えるでしょう。それはそれで良いのですが、私としてはもうひとつ伝えたいことがあります。

 「リズムを演奏する」

 というシンプルなものです。それでいいんじゃないでしょうか。3連や16分の音型も満足に叩けないのに、ステージにあがってうまく叩けるかとか、あまつさえプロになるってどういうことかとか、そんなこと心配する必要もありません。すべてのテクニックも、音符を演奏するためのものです。そのフレーズの源泉を多く身につけて置かなければ、どんなテクニックも似合わないスーツか使わない工具になってしまいます。ドラマーに「なる」方法を考えるのも大事ですが、音符を叩いて、リズムを演奏すれば、もう立派なドラマーです。その後のアプローチは「7つの最強プログラム」に登場しているドラマー/ミュージシャンが言っている通りだと思うのです。



<制作背景おぼえがき>

 今回はなかなか難しい点がありました。まず本の大きさ。ドラマーが譜面台に置いて使う大きさってのがあります。ある程度の譜面の大きさが確保できないと、実際の練習環境にそぐわない。ギタリストが家でヘッドフォン&ギター抱えてっていうのとちょっと違います。ただ、シリーズモノということでこれを変えることは難しい。いろいろと出版計画もあるでしょうから。

 とはいえ、こういう制約に対してエネルギーを出すと、逆に結果がよくなることが多いというのは経験上感じています。理想的な企画、すべて自分の意のままに作ったものが、結果としてダルいものになることはよくあるものです。ということで、ページに入る現実的な譜面の量から、250ページの内容をリストアップして、それを譜面にいったのですが、実際に録音してみたらCD3枚分にもなってしまった。これは自分がアホでした。まぁベタな音型練習がほとんどなので、時間ばかりかかってしまうのですね。

 これはかなり悩んで、結局練習譜面の中にあるクリックを削って時間を短縮しながら、できるだけのコンテンツを入れました。USBメモリにすればいいのになんて意見もあって、おそらくこれからそうなっていくかもしれません。てかなってください。そして、ページの編集と譜面の区切りの単位がどうにもうまくないところが発生しました。各エクササイズを、たとえば8段ずつ用意したものが、2段+8段+6段になって3ページになるなんてこともありました。それがページ単位でCDに収録されるので、ドラマーがCDに合わせて練習したとなると、小節感覚が揃わないのが、基礎トレだけにちょっとひっかかりました。最終的にできるだけ調整をして、今こうして本になったものを手にすると、制作進行中の過敏さもあったのかなとも思います。「なんかいいじゃん!」と思うのは手前味噌というものではありますか...。

 連日の没頭作業も今となっては良い想い出です。リズム教育研究所研究生のチャン君、キム君、井上勇人君にはコンテンツ制作や校正に協力していただきました。そして編集担当の石原さんを始め、関係者の方々の年末ギリギリの徹夜作業への最高の敬意と、今回もまた制作の機会を頂いたことに心から感謝しています。