makito's voice

2012年08月03日
シンバル・チューニングその2

  • なにやら「シンバル・チューニング」というコンセプトめいた言葉を使いたかったのが見え見えな内容ではありますが、次はシンバルに少し手を加える方法について書いてみたいと思います。その1を読んでいないかたは、まずこちらを。
  • ここに書くことは、かなりデンジャラスゾーンに入ってきます。ちょっと工作という範囲ではありません。また、自分が気に入らないシンバルだからといって、なんでもかんでもいじってしまう人が現れることも望んではいません。シンバルを製作する行程には、火入れ、ハンマリング、レイジングなどがあり、その一部を出来る範囲を見極めながら行うようなことになってきます。工作全般、金属加工、工具の取り扱いについて自信の有る方、そして、シンバルに対する真摯な気持ちで自主的な判断のもとでの自己責任が前提となります。失敗したら全部お釈迦になる可能性もありますし、私も、クラックが入って通常使用ができなくなったものしかやっていませんが、それでも何枚もダメにしました。
  • シンバルの合金は硬く、バリやトゲのようになった部分であっさり手が切れます。革の手袋など分厚いもので保護したほうが良いでしょう。また、削った粉も吸い込まない方が良いでしょう。興味を持ったら、まず一度廃棄しかないような割れたシンバルで一度試して見れば、なかなか手ごわいことには気がつくでしょう。シンバルのメーカーやグレードによっても合金の硬さも違い、ウェイトによって加工の難易度も変わります。
  • 以下、あくまで冗談ですけども、くれぐれもライブのMC中とかに「ちっとシンバル気に食わねえんだよな」とか言ってトンカンハンマリングしたり、舞台袖にボーヤを待機させて旋盤で削るとかそういうことはしたらアカンて!w
  • では、破壊的手法を。


    Ⅱ)シンバルに手を加える方法

    2-1)シズルを取り付ける(シズル効果)
     シズルに関しては、ジャンル的にやはりジャズドラマー御用達というところでしょうか。シズル効果は1-4で書いたような方法でも得られますが、穴を開けてシズルを取り付ける方が音が自然で響きも長くなるように思います。また、シズル自体の素材や価格もいろいろあって、シズル自体にもヴィンテージものが存在し、やはり音はいろいろ違ってきます。
     シズルの取り付け方は、昔はエッジから1/4くらいの円周上につけることが多かったように思います。個数はシンバルのサイズにもよりますが、3〜4個から8個くらい豪勢につけるような場合もあります。その他、一箇所に3つくらい並べて取り付ける方法もあります。穴径は使用するシズルによって3〜4mmくらいでしょうか。シズルが軽く揺れるようにするべきですが、あまり大きく開けないほうが良いと個人的には思います。
     シズル自体はペンチ等で取り外したり交換したりできますが、穴は開けてしまうともちろん元には戻りません。中古のシンバルなどでこの穴が空いている場合は、いろいろ試せて楽しいものです。
     シズルの取り付けはドラムショップでもやってくれるところがあります。効果的な取り付け位置など相談しながらお願いすると良いでしょう。もちろん工賃は支払うのですよw!

    2-2)ジングルを取り付ける
     シズルの取り付け同様にシンバルに穴を開け、タンバリンやパンデイロのジングルを取り付けます。最近はこうした製品もありますね。ジングルの取り付けはネジ+緩み止めも良いですが、ハンドリベットや皮細工用のハトメが使えることもあります。ジャギジャギとした音になっていくので、割れたシンバルなどで実験程度にやってみるのが良いでしょう。小さなタンバリンをシンバルの上に置くだけでもかなり効果があるので、わざわざ穴を開けるほどのことは無いとも言えますね。

    2-3)追いハンマリング
     シンバル製作の工程では、ハンマリングはシンバルのシェイプ形成でもあり、倍音構成にも変化が出ます。シンバルの合金は炉から出すとポテトチップのようにグニャっとした形になっています。これをハンマリングして叩いていくと、叩かれた部分の金属の組成に伸びる力が発生するとかで、全面にまんべんなく叩いていくとその力がバランスしあってあのシンバルのシェイプになっていきます。2〜3回叩いたからといってグイグイ形が変わるわけではなく、叩き始めると途方も無い作業のように感じますが、回数を重ねると、段々その感覚が芽生えてきます。
     さて、追いハンマリングとは、製品としてひとつの形になりある程度時間経過を経たシンバルに、さらにハンマリングするというものです。私が以前手に入れたVintage Kには、このハンマリングの痕があったものもあり、部分的にクラックになっていたものもありました。おそらくもっと年齢を重ねたサウンドにしようとしたのでしょう。私も、スタジオの廃棄品500円で買ったクラック入りのシンバルなどで追いハンマリングしましたが、気がついた時にはやりすぎていました。
     注意すべきことは、シンバル製作の段階では焼いて柔らかいうちにハンマリングしていることです。手持ちのシンバルを焼き直せば、またグニャグニャになります。焼かずに叩けば、割れる可能性も充分にあります。
     カップの部分に少しハンマリングを足せば、倍音がより複雑になりそうだな...ボウのハンマリングを増やしたいな...ボウのシェイプを変えたいな...そんな気持ちがフツフツと湧いてきたとしても、追いハンマリングでできるのか...。ま、やってみたいと思っちゃいますよねw
     金床と先の丸いハンマーを用意し、シンバルを叩くというのは、なかなかシビアです。いずれにしろ、経年変化を進める方向にしかならず、音を枯れさせたりなかば半殺しにしてボリュームを落とすような行為でもあります。また、ジャズ用ライドにあるような大きな凹んだハンマリングの方法は私にはわかりません。
     また、ハンマリングについては以下のサイトも参考にしてみてください。かなり具体的に書いてありますし、このサイトを作っているCraig Lauritsen氏のシンバルは最近日本にも入ってきています。
    cymbalutopia(workshopのページ参照)

    2-4)オチョコにする
     シンバルのエッジに力をかけ、ベコッと向きを反対にしてオチョコにします。その状態で叩くとまた違ったサウンドになります。元に戻してまたオチョコにして...これは製造行程ではこれを行いながらハンマリングするような場合もあるのですが、使い古されたものでこれをやったときのダメージの結果は予想できません。パコーンと行った瞬間にお陀仏とか...!?しかし、これで音が枯れるんですよ、とベコベコやっていた知人ドラマーもいましたね。多少ダメージを追ったような音になっていた記憶がありますが、どこまで効果があったのかはわかりません。

    2-4)表面を削る
     シンバルを削るということに関しては、次項2-5のウェイトを落とすことが主だと思いますが、個人的にルックスの意味も含めて表面を削ったことがあります。メーカー品でもサンディング処理のようなものも出ています。
     レイジングというものがサウンドにどこまで影響を与えるか、これは多少都市伝説的な面もあるようで、正確なことはここでは言えません。経験的に、グラインダなどで荒く削ってみたものは、多少アタックが荒れるような気はしましたが、これが法則的なものなのかはわかりません。

    2-5)削ってウェイトを落とす
     シンバルのサウンド、そしてスティックに対するレスポンスを左右する大きな要素にシンバルのウェイト(重さ=厚さ)があります。もう少し薄くしたい、もう少しウェイトをさげたいというドラマーの欲求は多いと思います。薄手のシンバルは割れてしまうことが多いせいか、ヴィンテージ市場でもThinウェイトで状態の良いものは稀有といっていいでしょう。手に入れたシンバルに、もう少し薄いシンバル特有の色気が欲しいと思った時に、削るという方法があります。
     私も小出シンバルに伺うご縁ができたときに、ひとつお願いをしてシンバルをレイジングして薄くしてもらいました。音は見事に変わります。問題はどこで止めるか。私も体験的にやらせていただきましたが、旋盤にシンバルを取り付けバイトで削るのはかなりの重労働でした。なかなかうまく削れないのです。
     また、別のシンバルを自宅でグラインダやドリルの先に研磨用ディスクなどを付けて削ったこともありますが、まぁとにかくうるさいし、金属粉が飛び散るのでなかなか納得のいくところまで作業できません。また、かなり削ったつもりでも、数十グラム減るぐらいでした。ツイッターなどで知り合った方の中には、結構ハードな加工をしている方もいらっしゃいましたが、そういった加工に詳しいご様子。なかなか思いつきだけでは実行しにくいものではあります。

    2-6)穴をあける
     SABIANのO-ZONEなど、シンバルに大きな穴を開ているものも出ています。ウェイトは下がり、全体にしんなりしたディケイ&叩き心地になります。こうした加工をしているドラマーが知人にいますが、穴を開けるのは結構大変です。ドリルで下穴を開けて金属用のこぎりをつかうか、シャーシパンチなどを使っているのかもしれません。穴は円周上にいくつか並べて開けるのはなかなか大変ですね。

    2-7)ラッカーを落とす
     メーカー品のシンバルの中には、ロゴのプリントに加え、汚れ防止のラッカー処理がされているものが多くあります。このラッカーを落とすと、ハンドメイド系の無垢なシンバルのような自然さが出てくることがあります。とはいえ、メーカーによってこのラッカー処理に違いがあったり、落とせば同じ効果があるとは限りません。私はロゴを消したいと思って剥離剤でラッカーも落ちてしまったので、いっそ全部と思って落としたことがありますが、サウンドはナチュラルになるように感じます。ただし、手垢やホコリ等つきやすいです。
     昔は、シンバルを土に埋めておくと腐食して使い古したようなマイルドな音になると言われていたりしましたが、2〜3週間程度埋めてもそんなに簡単に変わってはくれず、埋めたままだとライブに持って行けないやんけ!とすぐに掘り出したのは私です。

    2-8)エッジをカットしてサイズダウン
     シンバルのエッジにヒビが入ってしまったときに、ヒビの部分も含めてエッジをカットすることもあります。一般的には、カップからエッジに向かってシンバルのは厚みが薄くなっていきますが、エッジをカットするとこの薄くなっていく比率が変わるため、ただサイズダウンだけではなく、ウェイトの分布の変化やエッジが厚くなったりします。
     経験からいうと、ものによってはカットしたことで中心部分が残っってピッチ感が高くなり、エネルギッシュな甲高いサウンドになったものもあります。これは日々の入ったシンバルをカットして小さなハイハットに出来ないかと思い実行したものです。単体としてクラッシュなどとして使うには、バランスが崩れすぎることが多いようです。カットするのは金ノコか、薄手ならば金鋏でザクザク切れなくもないですが、かなり危ないので革の手袋などで保護はくれぐれも忘れないように。
     また、カットして残った部分は、多少加工すればクラッシャーのように使えることもあるかもしれません。もっとアグレッシブに、エッジをガンガンカットしてギザギザにしたり、六角形にしたりというドラマーもいらっしゃいます。

    2-9)炙る
     これは窯で焼くということではなく、ガスバーナーで炙ります。ずっとやっていると赤くなってきます。表面は変色し、後日その部分を含めてカットしたところ、炙ったところはガラスのように硬くなっていて、切った部分が花崗岩の崩れた部分のように脆くなっていました。サウンド的には、やはり響きが死んでいく方向だと感じます。


    <まとめ>
     書いてみたらかなり控えめな文章になってしまいました。やはりなんだかんだ言っても特殊な世界だなと思います。やる人は人知れずやっているし、やらない人はやらない。そして公開することのリスクも感じます。初心者の方が、斜め読みして「削ったらオモシロクネ?」なんてなったらちょっと嫌だなぁ。
     シンバルって御神体みたいなところがあるんじゃないかと思うんです。もちろん楽器というものにそういうところがあるのですが、楽器様みたいになりすぎるのもどうかとは思うし、かと言ってイージーに量産できるものばかりではないですし、ヴィンテージなど貴重な楽器はこちらが大切に扱わないと、その価値を自分達の跡の世代に継げないですね。すべての物は所有するものではなく、自分が現世で借りているものであり、楽器は自分よりも長生きするものという考えも持っていたいものです。とはいえ昨今の量産型の楽器に対して、自分なりのカラーを持たせたいという気持ちも演奏者としてはある意味自然なものではないかとも思います。
     基本的に、音楽を成立させるという意味では、楽器の音を操り奏でるのはすべて奏法であり演奏内容であるべきです。しかしドラムセットの場合は、セットにした時のシンバル同士のバランス、シェルとのバランスがあり、特に現代の音楽ではサウンドもアレンジのうちであり、演奏するジャンルによって要求される音色そのものに意味があることも多いでしょう。その狭間でできることをやるということでしょうか。今回、シンバルカスタムでも改造でも無く、シンバルチューニングという言葉を使ったのは、そんな意味もあります。と、こじつけたところでこの項はおしまい。


    Ⅲ)シンバルの補修(メンテナンス)

     シンバルを加工するということで、最後にメンテナンス的なことも多少触れておきたいと思います。

    3-1)クラックの進行を止める
     シンバルを長く使っていると、エッジやセンターホールからヒビが入ってしまうことがあります。あぁ割れてしまったとがっくりすることもあるかもしれませんが、割れたシンバル独特のサウンドもあります。ただ、そのまま使っているとヒビが進行していくことが考えられるので、ヒビの先に丸く穴を開けます。こうすることで、そこからヒビが進みにくくなります。

    3-2)割れたエッジの処理
     前述のヒビや欠けのようなものができたときに、その部分をカットしてしまうという方法もあります。その部分を切除して、さらなる割れや扱い時の怪我を避けるため滑らかに仕上げた方が良いでしょう。

    3-3)汚れを落とす
     使っているうちに全体に色がくすんだり、シンバルを素手で触ると手の脂分などが跡になったりしてきます。こうして汚れていくとともに音がこなれていくので、そのままで良いという考えと、ステージではピカピカがカッコイイ!という考えもあるでしょう。ただ、手入れ不足で緑色の錆が出てしまったりするのはよくないので、まずは乾いた布で拭いておくくらいのことはしておきましょう。個人的には、まず風呂場で石鹸や中性洗剤を使ってお湯で洗ってみて、汚れがどれくらいのものかを判断するのが良いと思います。
     汚れが酷い場合は、クリーナーを使うと良いのですが、研磨剤の入っているものとそうでないものを区別して理解してください。前者は汚れを落とす洗剤や溶剤のようなもので、後者は液体の紙やすりのようなもので、細かく削って汚れを落とすものです。
     最近は前者タイプのクリーナーも良いものが出てきているようですので、ドラムショップの記事や商品などググってみると良いでしょう。豊橋シライミュージックは精力的にこうした動画やブログ記事をアップしていて、とても参考になりますよ。

    <まとめ>
     やはり文章だけだと辛いものもありますね。もっと練らないといかん部分もあり、書き忘れている項目もまだまだあるように思います。こういう内容だけに、ドラマー諸氏からのご意見もあるかもしれませんので、随時修正加筆が必要でしょう。時間を見つけて写真も加え、音楽とドラムのページに移せたらいいなぁと。また、もっと手前のシンバルについての知識も必要ですが、興味の有る方はCYMBALBOOK など読むことをオススメします!日本語でもこんな本があると良いですね。
     ま、この程度のことはとっくにやっているよ、という人もいるのです。ドラマー界の自作派には、かなりの強者もいらっしゃるようです。工作に強くならなくても良いとは思うのですが、楽器についてたくさん経験を積んでより望んだ音に近づいていける喜びは持っていたいなぁと思うのです。

     この記事は自分としては実験的なものなので、ご意見、事実訂正、その他情報などありましたらmail@makito.comへお願いいたします。読んで頂きありがとうございます。